トリバタケハルノブ『トーキョー無職日記』全1巻

漫画

大学中退・上京したハルオが迷いながら成長していく「まんが道」的物語。

この『トーキョー無職日記』は2009年に発行された、トリバタケハルノブ氏による全1巻のストーリー4コマ漫画です。元々は2006年~2008年の間Web上に投稿していた「むつみ荘101号室」という漫画を基に加筆修正したものです。
主人公は作者自身をモデルにした「トリタニハルオ23歳」。彼は名古屋の大学を4年で中退し、アテもコネもないのに上京するところから物語は始まります。漠然とマンガやイラストの仕事がしたいと考えるものの、自信も無く諦めがちな性格から上手くいかないダメ人間の彼。そんな中、高校からの友人、ネットで知り合った仲間たち、仕事を通して知り合った人たちに助けられながら成長していくという奮闘記です。主人公はネガティブで劣等感や被害妄想が強く、何事も諦めがちなので要所要所で失敗していきます。その辺りの性格や悩みが共感できる方ならば、非常に刺さる本作だと思います。爽やか成長マンガって感じじゃなくて、カワイイ絵とは裏腹にネガティブ系「まんが道」といった風合いのストーリーになっています。

※以後ネタバレを含みますので、未読の方はご注意ください

トリバタケハルノブ作『トーキョー無職日記』全1巻

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タイトル:トーキョー無職日記
著者:トリバタケハルノブ
発行年:2009年
出版社:株式会社飛鳥新社
ジャンル:自伝的4コマ漫画

あらすじ・概要
 「死にたくないけど、生き方がわからない」あなたに捧げます。大学を中退し、親に借金して上京したけれど、何もできないままゲームとネットの日々。夜になると嫌なことから逃げ続けるだけだった半生を振り返って落ち込むばかり。どうやって生きればいいんだ!ホームレスにまで「がんばれ」と言われた男がなんとかなるまでの軌跡を描く4コマコミック。

<もくじ>

第1章:シニタイヤツハシネ
第2章:恋とマシンガン
第3章:永遠なるもの
第4章:NOW
第5章:わかってもらえるさ
第6章:魂の本
あとがき

サクっとネタバレあらすじ

第1章 シニタイヤツハシネ
タイトルは「The ピーズ」の楽曲から。
物語はハルオが上京してきたところから始まります。彼は吉祥寺駅(から超離れた)のアパート「むつみ荘101号室」に入居し、ひとり暮らしを始めます。彼の少ない友人は社会人として働き、無職でやる事が無いハルオ。暇つぶしのインターネットを通じて同じような感性を持つ友人と出会い、仲良くなります。
そんな彼は大学の頃に、周りと馴染めずにつまらない日々を送る中、引きこもり状態となっていました。そんな彼の目の前に突如ホームレスのおっさんが現れ、話をする中で自分のやりたいことが漠然と見えてきます。そう、彼がやりたかったのは「マンガ」。唯一彼が楽しく、輝けた記憶があったのがマンガでした。

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まぁ、オレが思うによー、兄ちゃんは学校辞めるよ、遅かれ早かれ
他に何かやりたいことがあるんじゃないの、俺にはそう聞こえたけど

「あのころ⑩」より

第2章 恋とマシンガン
タイトルは「フリッパーズギター」の楽曲から。
ネットを通じて知り合った「イタガキ君」は偶然にも同じく無職であり、イラストレーターになる事を夢見るという、ハルオと似た業界を目指す好青年でした。意気投合する彼らはお互いのこれまでの似た生き方を知るうちにどんどん仲良くっていきます。そんな彼の影響でハルオもパソコンを使ってホームページを作り、日記やイラストを投稿する日々が始まります。
そんな生活を始める中、イタガキ君含めネットで交流していた人たちと実際に会って飲むことになります。当日は彼ら彼女らに圧倒され、人見知りが炸裂して上手い事仲間に入れない。そんな彼は楽しそうなみんなから逃げるように二次会不参加で1人帰るのでした。

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俺は東京でもだめなのかなぁ
うまく人と離せなくて
このままずーっと友達の居ない、寂しい人生なのかなぁ
ばかやろう、ばかやろう、東京のばかやろう・・・!

「いいことばかりは」より

そんな被害妄想大爆発の彼をよそに、彼をはじめから受け入れていたネット仲間たち。その一人の女の子が帰郷することになり、再びみんなと集まる事になります。しかも場所はハルオの自宅。ずっと友人が居なかったハルオにとっての一大イベントが始まり、ネット仲間たちとの鍋パーティーは始まります。翌日みんなが帰った自宅で鍋の残り物を食べながら、東京も悪くないなと今を噛みしめるハルオでした。

第3章 永遠なるもの
タイトルは「中村一義」の曲から。
高校時代の友人「イマッチ」の居る小さな会社でアルバイトを紹介されたハルオ。唐突にそんなアルバイト生活が始まります。イマッチの会社は個性的な社員ばかりで戸惑うハルオですが、ようやく一歩目を踏み出していくことが出来ました。
そんな彼は、人生の分岐点となった高校時代に思いを馳せます。全く楽しくない男子校生活の中で、偶然にイマッチと知り合うのでした。彼とはファッション、カルチャー、音楽、様々な好きなものが似ていてすぐに意気投合しました。卒業したら一緒に東京へ行くと思ってたイマッチと、裏でコソコソ大学受験勉強をしていたハルオ。そんな彼らは大学生活が始まり一旦離れ離れになります。心あらずの大学生活と東京への憧れ、そのはざまでハルオはどちらでもない中途半端人間になっていました。

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いつのまにか道が分かれてみんなとはぐれてしまった
独りだ、やりたいこともない、できることもない
まったく独りだ

「歩く」より
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人間やりたいことのあるうちはなかなか死ねない
離れすぎて見えなくなってた分かれ道の先も、実はこんなに近い
そんな気がしない?

「道の途中」「そんな気がしただけ」より

第4章 NOW
タイトルは「サニーデイサービス」の楽曲から。
戸惑いながらも無我夢中で働くハルオ。偶然にも彼の引きこもりネット時代に培ったキーボード入力のスキルが重宝され、名刺入力の仕事を任されていきます。それと並行してイマッチの計らいで、会社のマックを使ってデザインの勉強も始めることに。
新たな仕事を貰い忙しくも充実した日々の中、ネット仲間とも交流は続いていました。イタガキ君も正社員として雇用が決まり、それぞれがそれぞれの道を歩き始める中、イマッチも自分の道に向かい始めるのですが。

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でもオレ、収入減ってもイチからやりなおしてでも
より好きな方に自分を賭けてみたい・・・

「あのときと逆」より

第5章  わかってもらえるさ
タイトルは「RCサクセション」の楽曲から。
ハルオは会社のツテで、フリーペーパーに4コマ漫画を書くという仕事を貰います。彼は初めてデザイン系の仕事を請け負いますが、4コマ漫画1つ描くのにボツの連続で四苦八苦します。そんな中イマッチの抜けた穴を補充するため、新たな社員が加わり会社も変化していきます。
職場仲間やネット仲間たちは自分の好きを自覚し、最大限生かせるような仕事をしている。そんな彼らに対して自分の知識の浅さ狭さに焦るハルオでした。

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もっと自分の好きなモノを信じるべきだった
それができなかった延長線上にいるのが今のオレだ・・・ 

「あの日の続き」より 

そんな中、自分の初仕事が乗ったフリーペーパーが街に並び、イラストレーターとしての一歩を踏み出すことになりました。

第6章 魂の本
タイトルは「中村一義」の曲より。
フリーペーパーの仕事が世に出たきっかけで、それとは別にファンクラブ会報用マンガも依頼される事になりました。2本のイラストとアルバイトという2足のわらじ生活が始まり、ハルオは肉体的精神的に疲弊していきます。電車で吐き気を催したのをきっかけに、ハルオはアルバイトを休み、イラストの仕事も手が付かなくなります。社長の直電話で呼び出され、会社のみんなの助けもあって4コマ漫画を完成させることが出来ました。

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ルートを守ることが大切なんじゃない
約束通りたどり着くことだ
行き詰ったら・・・
違う角度からモノを見る・・・

「夜の電車」より

窮地を切り抜けたハルオは自身を律し、謙虚な姿勢で仕事に取り掛かるようになりました。同じ職場の「ケンさん」のアドバイスで、ファンクラブ会報のイラストに関しても何とか合格を貰う事が出来ました。段々と自分のやりたい事の方向性が見えてきたような、まだ見えないようなハルオでした。

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なじめない大学辞めてやりたいこと見つけて東京に来て友達ができても
おれという人間が別人になったワケじゃないってことか・・・
おれはおれとして世の中と渡りあってかなきゃならない
「重い荷物はすぐに持てない」・・・

「ゴミ袋とダンボール」より

ハルオはベランダで1人、煙草を吸っています。自分の人生が何となく上手く行っているような気がしながら、こんなはずじゃないと疑いながら。。。

僕の個人的な感想など。。。

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1.当時僕の心に刺さりまくった人生系漫画
このマンガを手に取ったのは2009年~2010年くらいだったと思います。社会人になって数年の僕は毎日遅く帰る生活の中で、このままでいいのかと毎日、毎瞬間悩みまくっていました。そんな自分に人生を悩むハルオの言動は共感しまくり、いちいち自分と重なって仕方なかったです。
自分に何が出来る訳でもない、周りを観れば優秀でセンスのいい人たちばかりだ、これまでも上手くいった事なんて何も無かったじゃないか。そんな疑心暗鬼でネガティブで被害妄想の固まりであるのに、でも自分は何ができるのだろうかとひたすら藻掻くハルオは正に自分そのものでした。

2.ネガティブで自信はないが、このままじゃダメだとモンモンしている人に
ネガティブですぐに諦めてしまう癖に、本当はこのまま終わりたくない!という強い想いを抱いているならば、このマンガを読んで力を貰えると思います。とは言え、ハルオは23歳という若さで、当時アラサーだった自分は、その若さならなんだって出来んだろうよ!とマンガの主人公に嫉妬しつつツッコミを入れていましたけどね。

3.ネットで人脈が繋がって行く快感
僕も大学生の頃から周りに友人がおらず、本音を話したり遊んだりするような心許せる人間が周りに殆ど居なかった経験があります。そんな中で僕もネットを通じて知り合いや友人を増やしていった大学生活でした。今の若者に分かるかどうかなのですが、当時はネットやオフ会をする人間も少なく、ネットで友達を作るというのはかなりマイナーな存在でした。そういった日々のなか掲示板(BBS)へ色々と書き込み、共通の話題をもとにして実際会って親睦を深める事、そしてオフ会という枠が外れて友人になっていくのはある種の快感でした。声も顔も知らない人たちと、共通の会話をきっかけに集まって飲むことになる。あの待ち合わせのドキドキ感は今でも忘れられませんね。そういった体験をしている自分にとっては、懐かしいような、羨ましいようなそんな気持ちになりました。

4.40歳を過ぎてなおまだ刺さる
今回キンドルで買いなおして再度読んだわけですが、あの当時と変わらずに刺さりまくってる自分がいました。それはきっと、僕はハルオと違って未だ模索中だからなのかなと思いましたね。しかしモヤモヤするのではなく、ある種の勇気をもらえましたよ。

以上、良かったら参考にしてみてください。

オフィシャルHP・リンクなど

■ オフィシャルHP

トリバタケハルノブのブログ/コブラクロー

■ 公式アカウント

Instagram

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