ダメ人間だったハルオの成長とこれからを綴った物語
この『トーキョー自立日記』は2013年に発行された、トリバタケハルノブ氏による全1巻のストーリー4コマ漫画です。これは前作「トーキョー無職日記」の続編で、そのラストのすぐ続きから始まっています。しかし前作のおさらいから始まるので、本作だけ読んでも理解できるストーリーになっています。
主人公は作者自身をモデルにした「トリタニハルオ23歳」。前作で彼は大学を中退し、ひとり上京したところから始まりました。マンガやイラストの仕事をしたいと思いながらも、持ち前の自信の無さやネガティブさで悩み模索する日々。そんな彼も高校からの友人、ネットで知り合った仲間たち、仕事を通して知り合った人たちに助けられながら少しずつ成長していくという奮闘記です。
本作でハルオを含め仲間たちは成長していき、みんな少しずつ違う道を歩みだします。だんだんと無職で明日が見えなかった頃の彼らではなくなってきます。それでもハルオは仕事に恋に人生に日々迷い、自らの未来を逡巡します。そんなハルオはメンターとも言えるモモタさん、気になる女性たちとの出会いによって成長していきます。
前作「~無職日記」が藤子不二雄A先生の名作「まんが道」であれば、本作『~自立日記』はA先生の「愛しりそめし頃に」という感じですかね。いずれにしても、前作とセットで読む事をオススメします。彼と同じように人生悩める系男子達にとって、ハルオの人生の一部に触れる事で勇気を貰えるはずです。
それと最後に掲載された特別読み切りの「JUMP」がとてもイイです。コレは更に10年後のハルオと仲間たちについての物語です。みんな大人になり、バラバラになり、それでもハルオはハルオのまま悩みは続く。それが人生なんやなーといったお話です。
※以後ネタバレを含みますので、未読の方はご注意ください
トリバタケハルノブ作『トーキョー自立日記』全1巻
タイトル: | トーキョー自立日記 |
著者: | トリバタケハルノブ |
発行年: | 2013年 |
出版社: | 株式会社飛鳥新社 |
ジャンル: | 自伝的4コマ漫画 |
あらすじ・概要
揺れる20代を切々と綴り、幅広い層から支持を得た自伝的コミック『トーキョー無職日記』の続編です。 ニートから一転、バイトを始めた主人公に訪れる様々な出会い。 時に打ちのめされ、助けられ、悩み、恋して…!? 果たして彼は「自立」出来るのか!? 10年後の主人公と仲間達を描いた描き下ろし24枚を収録!
<もくじ>
第1章:どぉなっちゃんてんだよ
第2章:Devill’s Haircut
第3章:あんたのどれいのままでいい
第4章:東京
第5章:おまえのほしいのは何
第6章:夏の日の午後
第7章:Mo’Funky
第8章:今日はなんだか
第9章:I Like you
第10章:君が僕を知ってる
あとがき
特別読み切り”JUMP”
特別ショート
サクっとネタバレあらすじ
第1章 どぉなっちゃんてんだよ
タイトルは「岡村靖幸」の曲から。
バイトながら正社員の2人を従え、さらに新たなバイトの面倒を見るようになったハルオ。そんな中、強面のモモタさんという人物が現れます。彼は社長の知人で、仕事の打ち合わせ中でした。しばらくして、モモタさんの会社の顧客情報データを管理する仕事を任されるハルオ。本業と関係のない仕事の忙しさと、やりたい事一直線の仲間たちとの差を痛感します。
いつだってブレてるんだ
「今日はここまで」より
みんなはそうじゃない・・・
まず「決める」
そこへ着くためのポイントを設定して一直線に走ってく・・・
第2章 Devill’s Haircut
タイトルは「Beck」の曲から。
イラストの仕事とアルバイトの仕事が忙しい中、段々と乗り越えられるようになってきました。時折会社に泊まり仕事をするようになり、ようやく社員のみんなに本当の意味で認められるようになります。
ハルオが好意を寄せるリナちゃん(彼氏持ち)ともコンサートに行き、充実の毎日が過ぎていきます。そのリナちゃんに紹介された友人のマキはストレートな物言いでハルオの苦手なタイプでした。
いや、彼女が正しいよ・・・
「VS現実」より。
だが許せん!
第3章 あんたのどれいのままでいい
タイトルは「thee michelle gun elephant」の曲から。リナちゃんがそろそろバイトを辞める頃、ハルオは彼女に告るか告らないかで悩みます。そんな彼女の彼氏が高スペックだと聞いたハルオは怖気づき、またも動く前から諦めてしまいます。クリスマスに一緒にご飯を食べるというチャンスが到来しますが、、、。
そんな折、逃げてばかりのハルオの前に現れたのは、いつかのホームレスでした(トーキョー無職日記より)。
傷つくのが怖い、ハジをかくのが怖い、負けるのが怖い
「今日が昨日になる時間」より
それでいつも「なにも変わらない」方を選んでしまう・・・
でも本当になにも変わらないワケじゃない
時間は過ぎていく、今日は昨日になる
景色を変えるには昨日と違う一歩を踏み出す
「あなたもまたわたしです」より。
兄ちゃんはもう知ってるハズなのに
サボったらいかんよ、自分が自分であることを
第4章 東京
タイトルは「くるり」の曲から。
会社の先輩フカミさんが辞める中、ハルオもこれからの自分やバイトの進退について逡巡します。そんな中、強面のモモタさんが自分の会社へ転職してきます。当初抱いていた彼への印象は、仕事をするうち変化していきます。努力家な面、共通の趣味、彼のエピソードを聞くうちに仲良くなり、ついには心酔していきます。
また別の日、再びリナちゃんの友人たちと飲む事になり、苦手なマキと再会するハルオ。ズバズバと言い放つマキにいら立ちを隠せないハルオでした。
「うらやましい」とか「してみたい」とか言ってるヤツってなんなの?
「want」より。
本当に旅行したい人はそんなこと言う前にチケット取ってるわよ
そんな中、初めてのイラスト仕事だったフリーペーパー用の4コマ漫画が終わることになる。オロオロしている間にもう一つのファンクラブ会報用マンガも終わり、ただのフリーターへ戻ってしまいます。
第5章 おまえのほしいのは何
タイトルは「金延幸子」の曲から。
ハルオが働き始めた1年前と比べ、だんだんと会社の業務が変わっていく現実に直面します。クライアントの要望とデザイナーの個性のはざまで悩む同僚と比べ、特に何か表現したいものが見つからないハルオ。ヒントになるかもとネット仲間に誘われ作品発表会を見学し、再び苦手なマリに会います。
打ち上げではハルオに対いて嫌な事ばかり言い放つマリ。痛い所を突かれまくったハルオは反撃をしてマリを泣かせてしまいます。彼女をフォローする中で互いに話をするうち、似た悩みを抱いている二人は少しずつ距離を縮めていきます。帰り道、悩むハルオにマリがストレートなアドバイスをします。
だけど才能もセンスもテクニックも無いって現状はどう乗り越えればいいんだろうね~
「壁を乗り越える方法」より。
勇気だよ
第6章 夏の日の午後
タイトルは「Eastern youth」の曲から。
それぞれが自分の価値観を持ち、やりたい事の基準を持つ中で、何もないハルオは迷います。そんな悩みをモモタさんに投げかけると、的確だけど厳しい意見を言われます。
おれは生意気な話だと思うね!
「年齢」より。
お前の言う「みんな」が頑張ってるときどうしてた?
ハルオはとあるメーカーの仕事で、デザインが出来る人を10人程集める必要に迫られます。出来るか分からない案件に対して、いつでも無理そうなことから逃げていた自分を思い返します。そしてダメな現状を乗り越えるためには、、、「勇気だよ」とマリの言葉を思いだすのです。
や、やります!
「やる」より。
あたりまえだ
若いうちはなんでも「できる」って言っちまえっ
無茶なこと言って帳尻合わせているうちに成長してくんだよっ
第7章 Mo’Funky
タイトルは「Zoobombs」の曲から。
相変わらずの幕張と渋谷の往復で疲労困憊のなか、ふと我に返るとこれでいいのだろうかという思いが沸き起こります。
なんの根拠もなく
「秋風」より。
おれの人生にも一発逆転があるんだと・・・
おれはおれのままじゃないか
変わったのは風景だけ・・・
そんな悩みを相談する中で、久々に会ったケンさんからもバイトの辞め時を指摘されます。会社の先輩に相談するうちに、データ入力のバイトを辞めて、同じ会社のWebデザインの仕事を紹介されます。
第8章 今日はなんだか
タイトルは「シュガー・ベイブ」の曲から。
とりあえず今年いっぱいはバイトを頑張ると決めるハルオ。そんな中マキから電話があり、映画に行く事に。その帰り道、家の鍵をなくしたハルオ。とりあえずマリに電話すると思いがけない返答がかえってきます。
あっ!そうか!!どうしよう⁉
「どーすんの?」より。
・・・んー・・・
ウチ来る?
第9章 I Like you
タイトルは「RCサクセション」の曲から。
デザインをやりたい事が社長の耳に届き、ハルオはデータ入力のアルバイトを辞めるのと同時に、Webデザイナーとして正社員にならないかと持ち掛けられます。Webデザイナーと自身のイラストの仕事の2足のわらじ、給料が好待遇なのも含めて喜ぶべきことなのに、何故か浮かれる事が出来ないハルオ。
久々にネット仲間たちと会い、引っ越し就職結婚とステージが変わるそれぞれを見て、自分はどうしたいのか悩みます。
人に笑われるのがイヤだとか
「誰のせい」より。
君みたいに才能がないだとか
いつも誰かのせいにして自分をゴマかしていたんだ
すっかり見透かされてしまった・・・
彼は自分と向き合ううちに、マンガ家になりたいんじゃなくて、自分勝手にやりたいだけだと気づきます。本来選びたかったのは、職業(としてのマンガ家)じゃなくて、(マンガ家のような自分勝手なライフスタイルが持てるという) 生き方だった事を悟ります。
第10章 君が僕を知ってる
タイトルは「RCサクセション」の曲から。
ハルオはついにこれからの自分について、大きな行動をとります。それは今年で仕事を辞め独り立ちするという事でした。そしてもう一つ、別の大きな行動をとることになるのですが、、、。
この2年なんとかやってこられたのは
「立ち漕ぎ」より。
優しい人たちに、会えたのは
きっとあの時も、自分で決めたからだ!
僕の個人的な感想など。。。
1.前作に比べハルオの成長が垣間見える
本作は前作同様に悩むハルオの成長を共に応援しながら読むのが楽しいですが、前作に比べると段々と大人に?なっていくハルオを感じ取れます。それは彼自身の成長もあるし、周りの影響もあるでしょう。いつもウジウジ悩んで成長しない自分には痛い真実ですが、そうやって何も変わらなくても、時間だけは流れていくのですよね。
2.人生はどれだけいい出会いがあるかである
この本は正に人との出会いのお蔭で生きているハルオの物語です。そういう良い人を引き付けるハルオの魅力だとも言えるのですけどもね。性善説って感じで、世の中そんな甘くないぜ!って思う事もあるけど、自分を振り返った時にも、やっぱり支えられたのは結局周りの人だったりするんすよね。
僕はやはり最初に出会ったイタガキ君が全てだったように思います。彼のフレンドリーさ、優しさ、優秀さ、ビジョン、的確さ、どれもハルオのずっと先を行き、そしてハルオを引き上げてくれます。こういうヤツが自分の周りにも居たらなぁなんて、そんな事を思わずにはいられない好人物です。
そしてハルオにとって人生のキーマンとなるモモタさんも抜きには語れません。僕には彼の様な付いていきたくなるような上司、先輩が居なかった。そんな人と飲み、時に励まされ、時に注意され、時にバカやりたいなぁなんて、そう思いました。
3.読み切り「JUMP」の10年後は嬉しく切なく、そして日々は続く
前作と本作を読むことで、僕はハルオの人生の一部を知ることが出来ました。それで終わりでも良いのですが、個人的にはもう少し続きが知りたくなる終わり方ではありました。そこでこれらの後日談とも言えるこの「JUMP」を続けて読む事でちゃんとした終わりを感じられます。
10年後のハルオ、会社の仲間たち、ネット仲間たち、イマッチ。多くは登場しないものの、彼らが10年後にどうなっているのかという事が読めたのは良かったです。そしてハルオ、彼は10年後もモヤモヤ悩んで生きてます。
そうなんですよ、僕らもきっと、いつまでもネタを変えてアレコレ悩みながら生きてくんですよ。それが人生かー、、、と思うとちとツラいけど、そういう性格で生まれちゃったんだもん仕方ないっすね。
以上、良かったら参考にしてみてください。
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